鉛中毒とローマ帝国
- 2022.08.15
便利だというのでさまざまな分野で使っていたものが、実は途方もない害をもたらすものだったということは往々にしてあるものです。
少し前では、成層圏を破壊することで悪名高いフロンガスがいい例ですが、過去にも同じような話があります。
それは、鉛です。鉛が、血管や腸管の激しい痛み、神経麻痺、精神錯乱などを起こす恐ろしい毒性を持つ金属であることは、今では有名な話です。
そのため、ひと昔前まで印刷の活字を扱う仕事など鉛に触れる時間の長い職場には、厳しい安全基準が定められていました。
ところが、それを知らなかったらどうなるでしょう。
現在では、化粧品に鉛の化合物を配合するのは厳禁とされていますが、江戸時代から明治時代にかけて、おしろいには鉛白という炭酸鉛が使われていました。
そのため、厚化粧をする役者さんや女性に鉛中毒が後を絶たず、授乳時に母親のおしろいを吸い込んだ乳児が、脳を冒されるケースなども多発しました。
それでもずっと使われていたのは、鉛があまりにも身近なものだったからでしょう。
何しろ、鉛白とは紀元前4000年からエジプトで塗装用に使われていたほどの長いつき合いです。
毒性があるなんて、誰も疑わなかったのでしょう。
鉛は世界各地で産出され、柔らかく、融点が低くて成型加工がしやすいという利点を持つので、古くからいろいろな用途に利用されていました。
ローマ帝国はその最たるもので、化粧品だけでなく、食器やさかずき、さらに上下水道や浴場のパイプなど、あらゆるところにこの鉛を使っていたのです。
まさに、これでは鉛漬け同然です。
そのせいか、鉛を口にする機会の多い上流階級に流産や死産が多かったのだともいわれています。
また、ローマ皇帝たちは鉛のジョッキでよくワインを飲んでいたので、歴代皇帝のほとんどが中毒による精神異常をきたしていて、それで、あのローマ帝国が滅亡したのだ、と考えている人もいます。