牛・羊が食べたものを反芻する切実な理由
- 2023.03.05
よく知られているように牛や羊、カモシカなどには、「反芻」といって、一度食べたものをふたたび胃から口に戻して噛み直す習性があります。
牧場の牛などを見ていると、いかにものんびりと、モグモグとおいしそうに口を動かしています。そんな様子から、反芻は、「食べるときは食べられるだけたくさん胃に詰め込んでおき、後で安全な場所でゆっくりと味わって食べ直すために行なわれている」といわれていました。
しかし、そうではなかったのです。
牧場の牛は別として、広い草原にいる野生の草食動物にとっては、いつどこから敵が襲ってくるかわかりません。
そんな環境で、のんびりと味を楽しめるような安全な場所などあり得ないはずです。
それに、食べられるだけ食べておくこと自体、生理的にみて不可能です。
反芻動物は普通、4つの胃をもっています。
食べたものは、口で簡単に噛んだだけで、すぐ第1胃に送り込まれます。
ここでバクテリア類の助けを借りて消化された後に第2胃に送られ、そこで小さなかたまりにされて、ふたたび口に送り返されます。
それを、今度はドロドロの状態になるまでよく噛んだ後で第3胃に送り、そこから第4胃へと送られていくわけです。
問題は、そのうち第1胃の段階です。
これは4つの胃の中でも最も大きく、食べた植物の粗繊維などをどんどん発酵させています。
その発酵によってガスが発生し、その圧力が胃に満腹感を与えて食欲を減退させます。
つまり反芻動物の胃は、食べられるだけ食べておくようにはできていないわけです。
やはりこれは、繊維が多くて消化の悪い草を十分に消化しきるためにつくられたシステムと考えたほうが自然なのです。