アンナ・カレーニナを読んだ気になろう
- 2023.05.02
レフ・トルストイの『アンナ・カレーニナ』(1877年)は、100年以上前に書かれた小説ですが、その色あせない現代性で今も読者を驚かせ続けています。
この作品は、トルストイ(1828~1910)のもうひとつの大作『戦争と平和』とともに、言語の枠を超えて、これまでに書かれた小説の最高傑作のひとつと見なされていると言ってよいでしょう。
タイトルにもなっている主人公は、サンクトペテルブルクの上流社会で暮らす、美しくて知的な魅力あふれる女性で、はたから見る限りでは、申し分ない生活を送っています。
政府高官の夫から深く愛され、かわいらしくて聡明な幼い息子を溺愛し、親友や親族との交際を頻繁に楽しんでいます。
アンナは結婚生活に何の不満もありませんでしたが、さわやかな青年将校ヴロンスキーが現れたことで状況は一変し、当たり障りがなく情熱に欠ける夫に決して感じることのなかった激しい恋慕の情を燃え上がらせたのです。
まあ、不倫モノです。
アンナとヴロンスキーは不倫関係になりますが、すぐさま人の知るところとなり、アンナは家族も世間体も失いました。
ヴロンスキーとの仲が冷えていく中、アンナは社会的破滅の瀬戸際に立たされますが、事実上破綻している結婚生活に戻る気にはなれません。
アンナ・カレーニナは、文学における著名な悲劇的人物と見なされており、間違いなく最も緻密に描写された人物のひとりでしょう。
まるでページから跳び出してくるかのように生き生きと描かれた魅力的な女性で、その軽率な行動は非難されるべきかも知れませんが、その気品と優雅さと、自分をごまかした生き方はしたくないという気持ちは称賛に値するでしょう。
その姿は、さまざまな世代の読者から、フェミニズムの象徴、ロマンティックなヒロイン、悲劇の犠牲者などと解釈されてきました。
この小説は、アンナに焦点を当てる一方で、ロシアの社会全般も扱っていて、ロシアの政治、農民、近代への移行、西欧との関係などが取り上げられています。
こうしたテーマの多くは、アンナほど知られていませんが、小説のもうひとりの主人公である、裕福だが素朴な地主リョーヴィンを通して検討されます。
このリョーヴィンは、一般にトルストイ本人の考えを代弁していると考えられています。