意外と知らないムンクの「叫び」
- 2022.08.29
ノルウェーの表現主義画家エドヴァルトムンク (1863~1944) が描いた 『叫び』(1893年)は、実存的不安を象徴する現代のシンボルと言えるでしょう。
ムンクは『叫び』 を、 連作シリーズ 「生命のフリーズ」の一つとして描きました。
この絵は、当時最先端だった共感覚の理論(光と色彩の刺激が音の印象を生み出し、 音の刺激が視覚的印象を生み出すという考え)を実証しようとしたものです。
実際、本作の最初のバージョンには、このぎょっとするような画像を描くきっかけとなった体験が次のように記されている。
「私は友人ふたりと散歩に出かけていた―太陽は沈み始めていた―突然、 空が血のように赤く染まった私は疲れを感じて立ち止まり、フェンスに寄りかかった一青黒いフィヨルドと町の上空に、 血と火炎があった私の友人たちは先に行ってしまい、 私はそこに立ったまま、不安で震えていた―そして、無限の叫びが自然の中を通過していくのを感じた」。
つまり、中央にいる人物はムンク自身です。
男は叫んでいるのではなく、叫びが聞こえないよう耳をふさいでいるのです。
背後にあるのはオスロ・フィヨルドで、これをエーケベルグの丘から見た光景と考えられます。
ゆがめられた遠近法と、恐ろしげな波打つ線が、逃れられない叫び声に視覚的な形態を与えています。
ムンクは、この絵のバージョン違いを50枚以上描いていますが、その中でも特に有名なのが二枚あります。
一枚は、ボール紙にグワッシュで描かれたもので、2004年にオスロのムンク美術館から盗まれました。(その後2006年に発見され、修復を経て現在同館に展示されています)。
もう一枚は、油彩とテンペラとパステルによるもので、こちらはオスロの国立美術館にあります。
ムンクは、1895年にこの絵のリトグラフ(石版画) も制作しています。